ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人々(浜田淳)

表紙をめくると、ブックカバーの内側にあとがきからの抜粋が載っている。

 この本には、いわれのない罵詈雑言もあれば、仕事に対する真摯な想いもあります。物事を裏側から見てしまう人もいれば、妙に前向きな思考で日常をすごしている人もいます。付き合いやすい人もいれば、そうでない人もいるかもしれません。つまり、正義も不正義も、条理も不条理も、生理的思考も論理的思考もすべてそのままに記録してあります。
 そしてこれはなにかに似ています。そうです、これはぼくたちが暮らす日常そのものではないでしょうか。

ジョニー・B・グッジョブ 音楽を仕事にする人々(浜田淳)より

上記の内容を踏まえて、「音楽稼業20種25人のインタビュー集」というこの本の内容に触れていこう。

我々は音楽関係の仕事と聞いて、一体どれくらいの職種を挙げることができるだろうか。そしてそこで働く人間に対しどんなイメージを抱くだろうか?

そこに携わっている人間でない限り、多少は色眼鏡を通した見方になってしまうのは仕方ないだろう。何も音楽に限った話ではなく、映画関係だろうがデザイン関係だろうが服飾関係だろうが同様と思われる。

著者が、そういった色眼鏡で「音楽の仕事」が見られてしまうことを憂い、正しくその世界の現実を世の中に伝えようとしている内容の本である…というわけではない。むしろ私が読んだ限りの印象では、極めてニュートラルなポジションから淡々とインタビューをこなしているという感触だ。だが、それだけに内容はリアルだ。

フリーペーパーを含む多くの音楽誌で見られるような、最終的に仕事賛歌、音楽賛歌で終わるような甘っちょろいインタビューでもなければ、逆に徹底的に裏側を追及した暴露本的な内容でもない。取り扱う音楽の内容や良し悪しに関する話題を可能な限り削ぎ落とし、仕事としてどうなのか、つまり実際の業務内容に始まって収入や勤務形態といった内実の部分に切り込んだ、文字通りの仕事本である。

それ故に、これから音楽関係の仕事に従事したいと夢見てこの本を手に取った人の中には、好きな世界に飛び込んで充実した日々を送っている先達の姿が描かれているわけでもない本書の内容に、幾分か失望することもあるかもしれない。それどころか、中にはあからさまに嫌悪感を抱きたくなる部分すらあるだろう。

仕事という視点で見る以上、当然ながら「お金になるのか?」という部分から目を背けることはできない。となればキレイな話だけでは済まなくなるのも必然。特に第四章『金は稼ぐさ、仕事だもの。』の部分はかなり生々しい話が収録されている。個人的にはこの章こそぜひ読んでほしいと思う。

それにしても、実に様々な仕事が紹介されている。スタジオミュージシャンやレーベルなどのわかりやすいところから、ディストリビューターやアグリゲーターなど名前を聞いただけでは内容の想像もつかないもの、音楽教師やサックスのリペアマンといった「音楽の仕事」として盲点になっていたところまで網羅している点が素晴らしい。そして最後は「RAW LIFE」というイベントに主催者として携わってきた著者自身の話で締めくくられる。これも非常にリアルで興味深い内容だ。

この本を読んで得た収穫のひとつは、「音楽の仕事=好きでなければできない」という観念が破壊されたことだ。ここでは完全に仕事として割り切ってやっている人の話も出てくる。もしかすると彼らは別に音楽など好きでもなんでもないのかもしれない。だが割り切ってやっている。そういう姿勢で音楽の仕事に携わる人間がいることに憤慨する人もいるだろう。

だが仕事とはそういうものなのだ。世の中そうそう甘くない。

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