音楽家が実演で得る収益について

私は現在ライブハウスで働いている。
そこで今日は、音楽家に対するお金の流れをライブハウス側の視点から記していこうと思う。
十分に構想をまとめて書き始めたわけではないので、散文的な内容になると思われるがご容赦願いたい。

まず音楽家の主な収入源についてだが、実演(ライブ)・作品(CD・DVD・楽譜)などの他、ワークショップ・バンドのサポート・レコーディング等が挙げられるだろう。
今回はライブハウス目線で考えるということなので、実演から得る収益に焦点を当てていく。

収益はチケットの売上枚数によって決まる

お金の流れは、興行と考えると理解しやすい。一回の興行ライブで得られた売り上げを、興行主ライブハウスと演者で分配するというのが基本的な流れだ。

※時にはライブハウスとは別の興行主(オーガナイザー)がいることもある。その場合はまずライブハウスとオーガナイザーとで売り上げを分配し、演者に対してはオーガナイザーからギャランティという形で分配するのが一般的だが、その辺りも細かい機微がある。

興行主と演者とで売り上げを分配するといっても、それは必ずしも50/50の配分ではない。むしろそうなることは稀である。まずライブハウス側では、興行の売り上げ如何に関わらず最低限度の保証額のようなものを定めていることが多い。それが所謂チケットノルマであったり、ホールレンタル料と呼ばれるものだ。

簡単な例を挙げると

  • その日のライブにお客さんが100人来ようが、1人しか来なかろうが、最低限50人分の売り上げは回収させていただきます
  • もし売り上げがそれに満たなかった場合、出演者さんに補填していただきます

というような契約が交わされるのである。(この数字はあくまでも一例で、ライブハウスによって様々なパターンがあるので一概には言えない)

逆に、その多寡に関係なく売り上げはライブハウスと演者とで折半する場合や、最初から一定のギャランティを定めておく場合もある。(こういった取り決めやそのパーセンテージは興行主と演者の関係性によって変化するもので、これもまた一概には 言えない)

いずれにせよ、音楽家が実演に対して得る収益というのは、基本的には興行に対する売り上げ、つまりチケットが何枚売れたかという部分に拠るのであって、お客さんをどれだけ楽しませたかというのは二の次なのだ。これは考えてみればちょっとおかしい気もする。

そもそも娯楽や芸術というものは、受け手の感性にどれだけ訴えかけるかがその価値を決めるものだ。だが上記のやり方だと、極論、お客さんが入りさえすれば後はどんな酷いライブをやろうとOKということになってしまう(勿論、そんなことをすればその音楽家はファンに見放されて未来は無くなるのだが…)。
このシステムでは、顧客の満足度に応じて利益配分するということができないのである。

ライブの良し悪しと集客数は無関係である

とはいえ、「音楽にかかわらず興行とはそういうものだ」という意見もあるだろう。映画でも演劇でもダンスでも格闘技でも、お客さんはそのチケットの値段に見合うだけの内容を期待して、「先物買い」して興行にやってくるのである。

逆の視点で見れば、音楽家がきちんと収益を得るためには、一定数以上のお客さんに「あの人のライブは○○円払っても行く価値がある」と思わせなくてはいけないということだ。音楽家は自分の音楽にお金を払ってもらうわけだから、これは全く正しいことなのだが、ライブというものは難しい要素が色々ある。いくつか列記してみよう。

日時のタイミング、お客さんの懐事情

ライブは当然ながら一回一回が日時指定販売の商品であり、CDのように自分の買いたいタイミングで買うというようなことができない。お客さんにどんなに行きたい気持ちがあっても、その日に時間とお金を用意できなければ、その商品は手に入らないのである。

場所や施設の都合

チケット代は用意できる、日にちもOK、でも場所が遠すぎて無理!みたいなこともある。
東京に住んでいる人が、いくら好きな音楽家のライブがあるからといって北海道まで出かけるのは大変だ。

他に、距離ではなく会場に問題があって行かないというケースもある。特に身体的なハンディキャップを持っている人の場合、通路の幅や階段・トイレ等のことを考えて会場選びが慎重になるのも無理はない。

お客さんは日を選べる

先の2点と似たケースだが、例えば週に一度くらいのペースで精力的にライブをしている音楽家の場合、よほど熱狂的なファンでない限り全ての公演に足を運ぶということはしないし、できないだろう。お客さんとしては、自分にとって最も都合のいい日に焦点を当てて、他は捨てるという選択も致し方ない。

他にも挙げようと思えば挙げられる要素はあるのだが、キリがないのでこれくらいにしておく。これらに共通している点は、音楽の良し悪しは全く関係ないということだ。実際ライブは大変良かったにもかからず、集客は振るわなかったというケースは枚挙に暇がない。

結論としては、興行の成否はあくまでもお客さんの都合にかかっているということになる。もちろんファンの絶対数が多ければ、ライブごとに都合が合って足を運んでくれる人の割合も増えるだろう。

今回のまとめ

音楽家が収益をどれだけ得られるかは、興行のチケット売上枚数にかかっている。どんなに内容の良いライブを計画しても、お客さんの都合や天候等の理由によって集客が振るわないこともある。しかし諦めず地道にファンを獲得していくことが、ライブ会場まで足を運んでくれる人の数を増やすことに繋がっていくのである。

音楽家は、多くのファンを獲得するためにも良い音楽を作り、毎回のライブを良いものにしなくてはならない。そして興行主は「その日のライブにはぜひ行きたい」とお客さんに思ってもらえるような興行を組まなくてはならない。

とかくライブは水ものであり、ライブハウス側はいつも戦々恐々としながらブッキングしているのである。だからこそ面白いのだが、胃が痛くなることの方が圧倒的に多いのが悲しい現状である。この業界にもそろそろ大胆かつ大規模な構造改革が必要なのかもしれない。