一花繚乱 彩@阿佐ヶ谷Next Sunday(2010.07.29)

花束は文字通り華やかで色とりどりなものが望ましいが、一輪挿しの花には素朴で飾らない味、言ってみれば風情とやらを求めたくなるのが日本的美意識というもの。

とすれば、この「一花繚乱 彩」というイベントは、ちと日本的風情からは外れているやもしれぬ。やけにケバケバしい色で香りもキツイ、そんな花が多い。食べ物に喩えるならば珍味の類い。クセは強いがヤミツキになる。ただし調理の仕方を間違えるとお腹を下すことも。故にその姿は遠目にもよく目立つ。

今宵の花は五輪。順にそのライブの様子を振り返ってみよう。

本間太郎

本間太郎

この男、こういったライブハウスという場ではなかなかお目にかかれない、ホンマもんのピアニストである。ピアノが弾けるからピアニスト、ではない。ピアノという楽器の性質を識っている・理解している・自分の身体の延長線上でピアノを操る術を身に付けている。そういうピアニストだ。

歌はなく、ひたすらピアノの演奏に終始。オリジナル、即興、クラシックなどがくるくる交錯する。ゆったりした音に気持ちよくまどろみ始めてくると、激しく手数の多い演奏に切り替わって脳がβ波の放出を促す。寝れない。弾んだ調子のノリの良い演奏に身体を揺らし始めると、唐突に演奏を切ってMCが始まる。踊れない。何かにつけて人が悪いね。

そんなのらりくらりなライブだったが、後半ではファリャの「火祭りの踊り」を披露。
泣く子も黙る超絶ピアノで会場を沸かせると、そそくさとステージを後にした。

本間太郎(@tarowitz)- Twitter

Doramaru

Doramaru

ピアノがステージ端に引かれ、中央に設置されたのはサンプラー・シンセサイザー・ループマシンなどの機械類。そしてDoramaruがのそりとステージに上がり喋り始める。

会場の下調べをせずにダンサンブルな曲を用意してきたら、雰囲気的にとても似つかわしくなくてどうしたものかと困り顔。まぁ即興でやってみるかという軽い調子で、周りの機器の説明をざっとしながらライブを始める。

サンプラーを使ってリズムパターンを打ち出し、ループマシンを使って反復させながら少しずつ音数を増やしていき、また削っていく。一見して打ち込み音楽であるが、その場で音を作っていく様は紛れもなく生演奏だ。内容的にはヒップホップやトランスなどを感じさせるものだったが、ジャンル的な嗜好に関係なく、目で楽しめるライブといえた。

Dora。(@Doramaru)- Twitter

梶山シュウ

梶山シュウ

広島在住の梶山シュウ氏が、約3年ぶりに「一花繚乱」に出演してくれた。

彼もDoramaru氏同様にループマシンを巧みに操るルーパーである。ベース1本での演奏があれよあれよという間に豊かなオーケストレーションを構築していく様子も見事だが、長きに渡る修養と実践の生活の中で培われた美声が心地良い。良い演奏と良い歌があれば、何も小細工はいらない。シンプルな弾き語りの曲では心底そう思わされたし、再びループを使う曲を始めると、その匠の技に舌を巻いた。

ライブで特に人気の高い「らのえてぃあ」の演奏時など自然と手拍子が起こり、曲が終われば大歓声と拍手喝采。地元を遠く離れた東京でのライブにもかかわらず、誰よりも場を沸かせてくれた。
ただただ素晴らしいの一言に尽きる。

梶山シュウ(@kajiyamashu)- Twitter

航

再びステージ中央にピアノが据えられる。
4番手の航が登場し、ピアノの弾き語りを披露するのだが…。

ピアノの弾き語りという演奏形態にはどうしても「しっとり」とか「ほのぼの」とか、言葉はなんでもいいのだが、とにかく穏やかな印象というものがついて回る気がする。そういうイメージを持ったまま航のライブを観ると肝をつぶす。

柔らかな響きを帯びたアルトの歌声とは対照的に、時に攻撃的といってもいいような激しいタッチでピアノを響かせ、その楽曲は変拍子を多用した変則的な展開を好む。さながら1人プログレだ。
その一方で極めて愛らしい曲や歌を重視した緩やかな曲も披露し、単なる曲者で終らない面も見せた。

日比谷カタン

日比谷カタン

脱帽である。個人的には日比谷カタンのライブはそれなりの回数を観てきたし、はぐレ企画のイベントに参加していただくのもこれで3回目となるが、どうしたってこの人のライブには持っていかれてしまうのだ。

もはやギターの弾き語りとしては極限の域にまで突き詰められた妙技もさることながら、予測のつかないライブの構成も面白い。ソロ故の自由さを活かし、楽曲を自由自在にカットアップして並べ替え、唐突にTUBEの「あー夏休み」を挟んできたりとやりたい放題しながら、最終的にショーとして「なんかイイものを観たな」と思わせてしまうようにまとめ上げる力には感心する。

毎回何が飛び出すかわからない話芸もまた名人芸の域だ。笑いすぎて腹が痛かった。

日比谷カタン (@katanhiviya) – Twitter

おわりに

6月に『サブカルヒステリーアワー3 ~情熱と悩殺のロマンチズム~』という、大掛かりというか大袈裟なイベントを打った後、正反対ともいえるソロのみの小規模なイベントを仕掛けてみたわけだが、これはこれでやっぱり面白いなと手前味噌に思ったのであった。規模の大小は面白さの質にあまり関係ないらしい。またいつか、こういうイベントを打てたらと思う。