【ディスクガイド】Steve Vai『Flex-Able』

この項でスティーブ・ヴァイというのは違和感があるかもしれない。
フランク・ザッパの一門でロック界屈指の変態ギタリストと名高い彼ではあるが、アヴァン・ミュージック・ガイドの文脈に沿って見れば彼もポップスフィールドの住人に見えてきてしまう。とはいえ、この『Flex-Able』はここで紹介する価値のある作品なので、独断と偏見で紹介させていただこう。

1曲目の「LITTLE GREEN MEN」は、いかにもザッパファミリーの匂いを感じさせるようなカラフルで異端的な作品。リズムもコード進行も歌もことごとくヘンなのに、何故か可愛らしい印象を受ける。
ジャケットに描かれている緑色の宇宙人は、この曲を指しているのだろうか?

4曲目の「SALAMANDERS IN THE SUN」もやはりザッパの匂いを感じるが、こちらはインストの分だけもう少し大人しい印象。

アヴァン・ミュージック・ガイドの系譜としては全く外れているが、個人的には5曲目の「THE BOY/GIRL SONG」も印象深い。サザンロック調の明るくてあまりひねりもない曲調が逆にヴァイらしくないというか、「ああ、初期にはこんな曲も書いていたんだな」と思えて感慨深い。

後半面白味が出てくるのは8曲目の「JUNKIE」あたりからだろうか。こちらはまたもやザッパ系。続く9曲目、10曲目は小品が続く。9曲目はドラムソロ。10曲目はギターソロ。こちらは彼の得意とする喋るギターを楽しめる。

11曲目「THERE’S SOMETHING DEAD IN HERE」は奇怪なギターソロ作品だ。
アンサンブルそのものはカチッとまとまっているのに、メロディとバックの関係性が不協和音のような気持ちの悪い緊張感を常に保っている。

12曲目以降はボーナストラックとしてクレジットされている。
「SO HAPPY」はまさしくアヴァン・ミュージック的な作品だ。後の人気曲「THE AUDIENCE IS LISTENING」の原型らしきものがここで展開されている。人の話し声と、それに相槌を打つギターの声。この喋るギターはテクニックというより、ギターを使ってどんな音を出すかという点で彼の卓越したセンス、それとザッパの採譜係だったという彼の耳の良さを確認できる技だ。

最後を締め括る「CHRONIC INSOMNIA」は多重録音と逆再生(?)を用いたギターインスト。なんとも気持ちが悪い。H・R・ギーガーの描く怪物の鳴き声をギターで表現するとしたらこんな風になるのではなかろうか?

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