【ディスクガイド】FennO’Berg『The return of FennO’Berg』

即興のコンピュータ・ミュージック・トリオ

FennO’Berg(フェノバーグ)は、実験音楽の大家ジム・オルーク、テクノレーベル「メゴ」の代表的アーティストであるクリスチャン・フェネス、ピーター・レーバーグの3人によるユニットである。ジム・オルークとメゴに関しては、本家アヴァン・ミュージック・ガイドにて紹介されているので、ざっとおさらい程度に触れておこう。

ジム・オルークはアメリカ出身の作曲家。アヴァン・ミュージック・ガイドによると「ジャンルなんてものを端から無視して、最も危険な音響工作を行う男」なんて紹介をしている。本が書かれた当時、ジムはまだ30歳前だったにもかかわらず、ソロを含む関係作品は100に及ぶというからその仕事量は厖大だ。

「メゴ」はオーストリアのウィーンに本拠を置くテクノレーベルで、1994年に活動を開始。ダンス・ミュージックの突然変異体とも言うべきテクノの範疇をはるかに逸脱した電子音響を追及する先鋭的集団として紹介されている。

ライブ2ndアルバム『The return of FennO’Berg』

『The return of FennO’Berg』はフェノバーグの2作目にあたる。残念ながら1作目の方は未聴なので、前作に比べてどう変化したかなどについては分からない。3人の実績やジャケットの印象から想像するほどにアヴァンギャルド過ぎず、テクノの延長線上くらいで捉えてもいいだけの聴きやすい仕上がりになっている。

1曲目の「Floating My boat」などはまだビート感が存在しており、ちょっとコアなテクノを聴くようなファンにも好まれそうだ。とはいえ、先に進むにつれてリスナーを置いてけぼりにするような3人の「悪意」が段々と姿を現してくる。音楽というよりはホラー映画のSEをカットアップしたような楽曲もあるし、最後の「Adidas Sun Tanned Avant Man Stuck In an Elevator」などは最初から最後まで電子ノイズで占められている。

ノイズ音楽家の中には作曲者自身の意図を超えた「イレギュラーな音」を収集したものを楽曲の形にまとめるタイプもいれば、まったく滅茶苦茶な音を奏でているようで明確な意図や構成を持たせた音楽を作るタイプもいる。

ジム・オルークなどはどちらも兼ね備えたタイプのように見えるが、このアルバムに関しては3人が共作、しかもライブ音源(!)とのことで、いわば互いに伏せた手札(素材)をその場で出し合いながらゲームのように楽しんで作り上げられた作品といえそうだ。そういう意識で聴いてみると、また違った面白さが生まれてくる作品だ。