ピンク・フロイドとソ連

ソ連に有害視された音楽

先日、興味深いツイートを発見した。

1985年にソ連のコムソモール委員会が発表した「思想的に有害な外国の音楽グループ」一覧が面白すぎる。

錚々たるメンバーなのだが、有害とされる理由が意味不明。バブル世代の両親に見せたら「なんでフリオ・イグレシアスがネオファシズムなんだ」と爆笑していた。

安藤 (@return_to_2000) 2017年11月24日 ※現在削除済み

(投稿者によれば、この資料はアレクセイ・ユルチャク著『最後のソ連世代』で確認できるとのこと)

ジンギスカンが「反共、民族主義」と評されていたり、ヴィレッジ・ピープルが「暴力」であるとされていたり、かなり笑える内容になっている。特に目についたのはピンク・フロイドが「ソ連の外交政策 (アフガニスタン侵攻) の歪曲」をしている為に有害視されていることだ。

あまりにも面白かったのでピンク・フロイドの歌詞を再度読み直してみることにした(勿論聴きながら)。表には「1983」という年号が記してあるが、それを考えると『ファイナル・カット』に収録してある曲のどれかが問題視されたと思われる。生憎私はそのアルバムは持っていないのだが、ベスト盤の『エコーズ』の中から、それと思われるものを発見することができたので、対訳を引用しつつ考えてみようと思う。

「The Fletcher Memorial Home」

「The Fletcher Memorial Home」

不恰好に育ちすぎた子供たちを
全員どこかに連れていけ
そして彼らだけが住むホームを建てるんだ
救いがたい暴君や王たちのための
フレッチャー・メモリアル・ホーム

彼らは毎日有線テレビに映る
自分たちの姿を眺めていればいい
自分たちがまだ実在していることを確かめる為に…
彼らの関係などそんな程度でしかないのだ

「紳士淑女の皆さん、暖かくお迎えください。」
レーガン大統領 ヘイグ長官
ベギン氏とその友人 サッチャー首相に
ペイズリー
ブレジネフ氏とその一行
マッカーサーの亡霊
ニクソンの思い出
そして色添えに登場いたしますは
無名のラテン・アメリカ人精肉業者の皆さん

彼らは僕らが敬意を払うとでも思っていたのか?

メダルを磨いたり笑顔を研いでいればいい
しばしゲームに興じるのもいいだろう
「ボーン!ボーン!バン!バン」

「お前は死んだのだ。横になれ!」

冷たいガラスの目が常に監視している中で
お気に入りの玩具を与えられ
彼らはきっといい子にしているだろう
植民地の住民のために
フレッチャー・メモリアル・ホーム
生命と肉体の浪費者たちよ

みんな中にいる?
楽しんでいるかい?
それでは最終決定を適用するとしよう

『ファイナル・カット』を注意深く読み解けば、もっとソ連の官僚が怒りそうな曲が見つかるかもしれないが、手持ちでそれとわかりそうなのはこれだけなので、この曲の解釈を考えてみよう。

不恰好に育ちすぎた子供たち

ごくごく単純に読み解けば、ブレジネフをレーガンら西側諸国の首脳ら共に「不恰好に育ちすぎた子供たち」として攻撃している点が問題視されたのだろう。それにしても時は1983年。冷戦まっただ中の時代である。ロジャー・ウォーターズという人は母親の代からの共産主義シンパなのだそうだが(Wikipedia調べ)、そんな彼の目には資本主義を推進する西側諸国だけでなく、東側の首脳たちも「救いがたい暴君や王たち」に映ったのだろうか?

ふと思いついてYou Tubeで検索してみたらPVが見つかった。これを観ると少しばかり合点が行った。

微妙~に似てるんだか似てないんだかわからない役者たちが演じるマッカーサー(レーガン?)、サッチャー、ブレジネフ(?)らが、まさに不恰好に育ちすぎた子供たちという風情で談笑しており、家の中には何故かヒトラーやナポレオンまでいる。

これを「ソ連の外交政策の歪曲」と取るかどうかはともかく、小馬鹿にした感があるのは否めないよな。しかしソ連のアフガニスタン侵攻と結び付けて考えるにはちょっと弱い内容。やっぱり他にあるのだろうか?それを確かめる為だけに『ファイナル・カット』買いたくなってきた。