善意という名の

近頃、Twitterの使われ方について強く思うところがあるので書いておこうと思う。

前々から指摘されているが、Twitterには誤った情報が短時間で爆発的に拡散されるという危険性がある。そのことに多くのユーザーが気づいたのが昨年の東日本大震災だろう。多くの人たちが善意や不安から真偽の確かでない(デマ)ツイートを拡散することで混乱を招いたり、より必要とされる情報がどんどん流れていってしまうという事態を招いた。

多くのユーザーはあの時の出来事を教訓にしてきたはずなのだが、あれから一年余りの歳月が経ち、次第に忘れてしまった人が増えてきたように思える。

ライブ機材紛失騒動

最近身近で起きた、とある出来事を例に挙げてみよう。
あるバンドマンがライブハウスに置いていた機材を紛失した。もう少し詳しく書くと、「ライブ後にそのままライブハウスで打ち上げをしていたら、楽器と機材が無くなった」というツイートがされ、それを受けて周辺の友人知人がどんどん情報を拡散していったという話だ。

結論から言うと、その無くなったと思われる楽器と機材はその日のうちに無事に見つかった。詳細は伏せるが、紛失した経緯は本人とその場にいた他の人の不注意と手違いによるもので、盗難などではなかったのである。

無くなったと思ったものが見つかったので、本人は勿論周辺の方々も安堵しただろうし、Twitter上でもそのようなやりとりが見受けられたが、この事件には単純に「めでたしめでたし」で終わらせられない要素が含まれている。

ライブハウスへの濡れ衣

一つは、ライブハウスの実名が挙げられていたことだ。

機材を紛失したバンドマンA氏がその旨をTwitter上に呟いてから機材が見つかるまでの間、当該ツイート並びにRTを読んだ多くのユーザーにとって、そのライブハウスは「盗難事件のあったライブハウス」だという認識を持たれた可能性が高い。

A氏はTwitter上ではっきり盗まれたと言及はしていないものの、「犯人を見つけたい」といった発言もしており、少なくとも第三者からは盗難があったと捉えるのが自然な内容であった。

話の主点はあくまでA氏の機材が紛失したということであるが、もう一方でBというライブハウスで盗難事件があったらしいという情報もおまけ的に広まってしまったのである。

善意と無責任は紙一重

個人的に恐いなと思ったのは、そこから先のユーザーたちについてである。
仮にA氏をフォローしているユーザーが500人いたとする。さらにその500人の中に今度の件で情報を拡散したユーザーが10人いて、それぞれフォロワーが100人いたとする。すると単純計算で件の機材紛失ツイートが1500人のユーザーに広まったことになる。

実際にはリツイートがさらにリツイートされることもあるだろうし、フォロワー数もここでは便宜的にわかりやすい数字にしただけなので、現実それ以上に情報が拡散されたと見るのが自然である。それだけの数の人間に、ものの1~2時間で情報が広まってしまったのだ。

この情報を拡散したユーザーたちはもちろん皆、善意の人であったのだろう。A氏の力になりたい、あるいは自分は力になれないが他に力になってくれる人がいるかもしれないという思いでリツイートボタンをクリックしたのだと思う。

もう一方で、Bというライブハウスに対して盗難事件が起きたという濡れ衣を着せてしまったことには多くのユーザーが無頓着だった。実際A氏が機材が見つかった旨の報告をした際も、A氏に対して直接リプライを送るユーザーは多く見受けられた反面、事件解決の報告をリツイートなり自分で発信するという行為にまで及んだ人の数は極端に少なかった。

つまりA氏のフォロワーのフォロワーといったユーザーに対しては、ただ単純に「BというライブハウスでAさんの機材が無くなったという事件があった」という部分だけが(盗難に遭ったらしい)という印象で伝わり、「ライブハウスは盗難の起こる危ない場所だ」というイメージを与えてその後は何のフォローもされなかったということである。

今回のようなケースは決して珍しいことではない。真偽を確かめないままライブハウスに対する負のイメージが拡散される一方、誤解を解くのは容易ではない。実際にはその大半が今回のような手違い、勘違いによるものだったとしてもだ。

穿ち過ぎだと思われるかもしれないが、これは実感である。なぜなら今回のA氏の機材紛失騒ぎの際に、自分のTL上で「また起きたのか」といった意味合いのことを呟いているユーザーがいたからである。既にそういうイメージが定着しているのだ。

落ち着いて情報を精査しよう

今更ながらTwitterの利便性は正負両面あるということを再認識した一件だった。特に悪気がない人ほど要注意だということがわかった。

Twitterはボタン1つクリックするだけで重要な情報をスピーディに広めることのできる優れたツールである。それは誤った情報や悪意ある情報についても同様だ。悪意ある情報については皆それなりに注意を払っているとは思うが、誤情報を善意で拡散するのはなかなか止められない。

ハブユーザー(情報発信者を直接フォローしているユーザー)は、何かあった際はまず本人に詳しい状況を確認するというステップを踏む癖をつけてほしい。

例えば楽器や機材の紛失騒ぎがあったとして、それがまだライブをやっている騒がしい時間帯に起こったのか、人も少なくなった撤収中の出来事なのか、本人が席を外していたのは数分だったのか数時間だったのか、シラフだったのか酔っていたのかなどの状況によって、大きく判断が変わってくるからだ。

自分の行為が「善意」なのか「無責任」なのか、心当たりのある人は振り返って考えてみて欲しい。逆に言えば、それを考える間を置かずにとりあえず情報を拡散できてしまうのがTwitterの恐ろしさなのだ。自分自身への戒めも含めて、皆さんご注意ください。