この本は、ポップミュージックの対極に位置するような実験的・先鋭的音楽の歴史、作品、活動家などを紹介するガイドブックである。
1999年が初版なので10年以上前に書かれた本だが、今読んでも興味をそそられる内容だ。何せここに取り上げられている音楽や音楽家は、いわゆる「正道」を外れたところに位置するものばかりで、余程の数寄者でない限り馴染みの薄い世界だ。それだけに、この本を読むという行為には未開の土地を記した冒険地図を眺めるような趣がある。
とはいうものの、この本はサブカル本に類するものではない。少数派の為のものであるという自覚は持ちつつも、少数派にありがちな選民意識を発揮して多数派に対するアンチテーゼを誇示しているわけではない。
そういった体制的要因は脇に置いて実際に読んでみた感想としては、どの筆者も(本書には計20名近い執筆者が携わっている)対象に肉迫する姿勢が感じ取れる。それ故に言い回しが小難しいものになって読みづらい部分もあるが、敢えてこの手の本を手に取るだけの読者ならクリアできるだろう。
章立ては便宜上、以下の8つの大項目に分けられている。
- エレクトロニカ
- エクスペリメンタル・ポップ
- ミニマル&ポストミニマル
- ポスト・アヴァンギャルド
- フリー・ミュージック
- 声のパフォーマーたち
- サウンド・アート
- ワールド・ニュー・ミュージック
この中でまたさらに細かい分類が存在するし、紹介されている音源や音楽家の数は500にもなるので情報量は半端じゃないが、時系列に沿った形で書かれているわけではないのでどこから読み始めてもいいし、そういう意味では気軽に読める本だ。
個人的には、エレクトロニカやミニマル&ポストミニマルあたりの項に特に興味を惹かれたが、その他にベン・ニール、デイヴ・ソルジャー、ヘンリー・カイザーそれぞれへのインタビューも読み応えがあって面白かった。
ニューミュージックの音楽家に共通しているのは、彼らは既に存在するスタイルには懐疑的で、常に新しいことをしようとしているということだ。故にこの本に登場する人物はいずれも刺激的で、ついていけないと感じることも人もいるだろう。それすらも問題ないのだ。
貴方がこの本を読んで「訳がわからないしついていけない」と感じたとしても、「この世には訳がわからなくてついていけない音楽が存在するのだ」という事実を知れたことに本書の存在意義は見い出せるはずだと思っている。