悪夢の金太郎飴、どこを切っても生き地獄@渋谷LAST WALTZ(2015.06.11)

2015年6月11日。日比谷カタン・天国・蜂鳥姉妹の3組が大阪・名古屋を阿鼻叫喚の地獄絵図に陥れてきた「悪夢の金太郎飴、どこを切っても生き地獄」ツアー、最終日である。

続々と集まってくるお客さんたちも、誰が目当てというよりはこの3組を観たいという気持ちで来られた方がほとんどだったと思う。実際開演から終演まで、自分の目の届く範囲では途中で帰る方は見当たらなかった。

蜂鳥姉妹

一番手は蜂鳥姉妹。バックバンドはPf.本間太郎とDr.渡部正人の2人で、いつもの佐藤真也さんはゲスト扱いということだった。

実は蜂鳥姉妹のライブを観るのは初めてだったのだが、見るからに強烈なキャラの2人(全身網タイツのあみ太さんと、マフィアのような出で立ちのスグルさん)がステージに立って「今日はこういう人ばかり出ますから」なんて言われれば、たとえ知らずに来た人でも今日のイベントの性質がすぐ分かるだろう。

最初に一曲2人で歌った後、しばらく交互にソロ歌唱を披露する時間が続く(その度に衣装が替わる)。あみ太さんはオリジナル中心、スグルさんはカヴァー中心の曲目だったと思う。聴いている感じではご両人ともちゃんとした基礎のある方々で非常に上手い。どっちがいいってもんでもないが、個人的にはスグルさんがカウンターテナーで歌う曲(「もののけ姫」とエディット・ピアフのカヴァーなど)が特に素晴らしかった。インパクトのある見た目、常軌を逸した設定(笑)のどぎつい曲、でもやってることのレベルは高い。

これは今日の出演者全てに言える共通項だったが、まずは最も見た目のインパクトが強い蜂鳥姉妹が今日(というかツアー全体)の方向性を提示する役割を担って一番手を務めた後、天国と日比谷カタンがどう受けるかという想像を楽しめる点で、今日の出順は個人的にはベストな流れ。(そもそも「どこを切っても生き地獄」と謳っているのだから順番に意味を見出そうとする行為は多分無意味なんだけど)

(追記:蜂鳥姉妹は2016年9月1日に解散しました)

天国

2番手は天国。バンドメンバーがステージで既にスタンバっている状態で、楽屋から突然宮国さんの「円陣組むぞー!」という叫び声。その後しばらく声だけの独り芝居が続き、出てきた彼の姿は紅白帽を被ったパッション屋良のごとき恰好。一応歌のお兄さんという設定らしい。

キャラの濃い人ばかりの集まりの中でも、今日の宮国さんは更に異端的存在感を放っていた。しかしこの一見「子供からお年寄りまで」受け入れられることを狙った(のかどうかは知らないが)設定のキャラから、背筋の凍りそうなブラックな歌が飛び出すギャップが最高なのだ。お馴染みの「齊藤」「お友達」「さっちゃん(最近はSuch A Unbelievable Dayで定着している模様)」を立て続けに披露し、ブラックな笑いを撒き散らす。

最近では「さっちゃん」の終盤に「異食症」が挿入されるバージョンが定着しているようで、それにより歌詞のブラックさもより重みを増してきている。全く違うタイミングで作られた曲がこのような化学反応を示すとは。

前にも書いたかもしれないが、天国の本当に良いなと思うところは、こうやって楽曲がどんどんバージョンアップを繰り返していくところだ。天国の楽曲は基本的に設定ありきで物語が進行していく構成になっているため、受け手が常連になってくるとネタバレによる新鮮味の喪失が起こるジレンマが生じてしまう。だがこうして頻繁に楽曲をバージョンアップさせることによって、我々受け手が既に知っていると思っている楽曲を聴くときも油断はできず(油断していて意表を突かれるのも楽しいのだが)、マンネリズムの呪縛から解放される。

その手法は時として「自分が大好きなあの曲を聴きたい」というファン心理を遠ざける恐れもあるかもしれないが、もし天国にファンが存在しているなら、その人達はむしろ裏切られることをこそ歓びと感じるだろうから問題ないだろう。少なくとも私は一ファンとして今日のライブをそのように楽しんだ。

(仮)天国の情報 天国ライブ日程
宮国英仁(@3892hidehito)| Twitter
本間太郎(@tarowitz)| Twitter

日比谷カタン

そしてトリは日比谷カタン。ここでも最初に1曲(2曲?)弾き語りスタイルで披露した後、本間太郎と渡部正人のサポートが入ってバンド形態での演奏に移行した。この2人は今日出ずっぱりである。

日比谷カタンも天国同様に(というかむしろ天国の方が彼のスタイルに影響を受けた部分も少なくないと思われるが)バージョンアップを繰り返すアーティストだ。といっても、カタンさんの場合は楽曲を更新していくというよりは、場の状況に応じた即席の組み換えという場合が多く、いかに組み換えていくべきかというその状況を見極める目と、その作業を瞬時に行う対応力こそが彼が磨いてきた部分ではないかと思う。

Fake Fur bought by Summer Sale BOT

そういう目でカタンさんのことを見る時、絶対に無視できないのが『Fake Fur bought by Summer Sale BOT』(通称FFBBSS)という楽曲である。曲中で古今様々な歌謡曲やJ-POPの名曲の断片が再生される、文字通りボット的な曲。

カタンさんを語る上で欠かせない要素である情報過多性、そして先程挙げた臨機応変性。
『FFBBSS』は、この2つのパラメーターだけを極端に振り切ったような曲であり、本人が「カヴァーなんかじゃない、ボットだ」と言い切っているにもかかわらず誰にも真似できない(そもそも思いつかないだろうし、やってもここまで強度のあるものにはならない)完全なオリジナルになってしまっている。北島三郎からSEKAI NO OWARIまで、再生される<曲中曲>の幅は実に広く、しかも数がとんでもない。

計ってみたところ、この日の『FFBBSS』はトータルタイム15分強。その中で<曲中曲>が流れている時間を10分、1つの<曲中曲>が平均10秒と仮定して、約60曲が1つの楽曲の中に組み込まれていた計算になる。出演するイベントによっては更に長いバージョンであったり、特定のジャンルに特化したりといった無数のバリエーションが存在することを考えると、改めてカタンさんの情報処理能力に感嘆するし、戦慄を覚える。

関係ないけど、ファンキー末吉氏や江川ほーじん氏がJASRACに提唱している「演奏曲目入力システム」が実現したら、この曲を演奏した時の扱いってどうなるんだろうか?(笑)

ヲとといヲいで

他に印象深かったのは「ヲとといヲいで」。
カタンさんの曲の中では割と新しめで、ある意味で実に彼らしい、とっ散らかった感じの曲。

昨年末に初ライブをした日比谷カタンバンドである「悦楽共犯者」の時よりも、今日演奏の方が素晴らしかったと自信を持って言える。悦楽~との違いはドラマーだけとも見ることができるけど、全体に演奏の練度が上がっている印象を受けたし、通常のロック用のものよりやや小さめのドラムキットを使っていたのも良かったのかもしれない。

こう表現するのが正しいのか自信ないけど、キレッキレの演奏が実にクールでカッコ良かった。ダンスミュージックとしては情報量が多すぎるけど、でも踊れる。

日比谷カタン (@katanhiviya) | Twitter

セッションタイム

そしてセッション(というか合奏)。今日の出演者、とりわけフロントマン4人が全員終結するとまったくもって色濃い。しかし主導する人がいなくなって喋りはぐだぐだするという事態も(笑)。

曲順は忘れてしまったのだが、天国の「茶色い庭」、カタンさんの「愛のギヨテエヌ!恋するイミテシヲン!サ!」、蜂鳥姉妹の何かと、一通りそれぞれの持ち歌を披露したと思うが、驚いたのはSOFT BALLETの「FINAL」が演奏されたことか。このメンツからソフバが出てくる印象がなかったので意表を突かれた。この曲では宮国さんがモリケンになりきってて、ロクに歌わずにひたすらクネクネダンスを踊っていたところが大変高ポイント。わかってるなぁ。

それにしても元々「隙間を埋めたがる人」ばかりが集まったこの対バンで、全員集まっての演奏となるとそれはもう大変な感じで、カオスを通り越してノイズ的にすら感じてしまった。

なにはともあれ、こういう試みが出来るのもお互いが認め合う仲だからこそだと思うし、この対バンはぜひとも定期的に実現していただきたいものだ。