日比谷カタン×天国@西荻窪ビストロサンジャック(2012.11.06)

2012年11月6日。本来は先月行われるはずだったライブなのだが、台風のせいでこの日に順延された。本来の日程であれば観に行くことができなかったので、ここは台風に感謝したい。

日比谷カタンと天国は、2008年の初対バン以来数多くの共演を重ね、同じステージでセッションをしたことも数回。もはや鉄板の組み合わせとなった。しかしながらこの2組だけという形のイベントは、これまでなかったはずである。

今日は出会いから4年の歳月を経て、ようやく実現したツーマンライブ。そして今回、日比谷カタンはヴァイオリンの向島ゆり子を迎えてのデュオ形式。対する天国も、最近いつも一緒のドラム渡部正人を抜かしてのデュオ形式。奇しくも2対2の図式となった。

天国

先手は天国。サンジャックでやるのはは2回目だが、以前出演したのは随分と前の話。久し振りにステージに立ってみて、観客との距離の近さに微妙な笑みを浮かべるボーカル宮国氏だった。

オープニングナンバーは「重力からの解放」。静謐な立ち上がりだ。加えて本間のピアノは普段よりも若干抑え気味のタッチ。宮国氏の歌が一語一句はっきり響いてくる。
途中、聴き慣れない歌詞が飛び込んでくる。「ある老夫婦の物語」…はて?と思ったら曲が急転、いきなり「斎藤」が始まる。おう、そう来ましたか。ここらへんから俄然ステージが芝居がかってくる宮国氏。エンジンかかってきた感じか?

その後「バースデイ」「おともだち」といった新しい曲を続けて披露し、続く(その前に「茶色い庭」があったかも)「さっちゃん」で会場を大爆笑の渦に巻き込む。いやぁ本当にすごい。わかってて笑っちゃうのがすごい。神懸かっている。まさにキラーチューンである。こればっかりはライブを体感してもらう以外にない。音源化されても、映像化されても、これだけは伝わりきらないよ。

MC中も今日は妙に仲が良い姿を見せる2人。それだけで客席から笑いが零れる。もう何をしたっておかしい状態になったら場が完全に天国に支配されている証拠だ。そんな中でも「宮国さんは実はシンガーだったんです!」という本間の前フリで始まった「砂」は切なさたっぷりに響いた。今日はいつもよりもこぶしを効かせた唄い回しだったかな?俺は結構フラットに歌う「砂」も好きだが。

最後はすっかり定番となった「ダダ」で締める。久しぶりにピアノとボーカルだけの形で聴いてみると、宮国氏がかなりライブに対する意識が高まっていることが伺える。これまでは早口の部分では言い回しが曖昧になったり、リズムがよれたりすることが時折あったのだが、今日は非常にしっかりと唄っていた。歌詞が意味を持って伝わってくると、彼らの知性がよりリアリティを持って感じられる。今日は天国初心者にもぜひ観て欲しいライブだったな。

ふと思ったのだが、天国のライブに対してよく聞く「演劇的」という所感。自分でも以前そういう言葉を使って評したこともあるのだけど、最近はほとんどそう感じなくなってきた。宮国氏がやっているのはあくまで歌の世界の表現であって、要はそれを声だけでやるか、身体全体を使ってやるかの違いに過ぎないのではないかと。「演劇的」なんていうとサブカルっぽい響きだが、実はそれこそが天国の「ポップネス」のキモなんじゃなかろうか。

(仮)天国の情報 天国ライブ日程
宮国英仁(@3892hidehito)| Twitter
本間太郎(@tarowitz)| Twitter

日比谷カタン×向島ゆり子

後手、日比谷カタン×向島ゆり子組。
何せ狭いもんだから、ゆり子さんの方は弓が壁にぶつかっちゃって、なかなか立ち位置が決まらない様子。そんなわけで若干押し気味のスタート。

一曲目は聴いたことのない曲。恐らく比較的新しい曲だろうと思われる。日比谷氏はあんまり速弾きを用いず、歌の方も朗々とした感じ。天国同様静かな立ち上がりである。

続く「ベイビースキンの世界紀行」でアクシデント発生。なんと序盤で日比谷氏が「間違えた!」と言ってライブが止まってしまう。どうも歌詞が飛んでしまったらしく、そのまま思い出すことができずに困惑する氏。まあ何とも珍しいことがあるものだ。しかし今日のお客さんはレベルが高い。すぐさまスマホで日比谷カタンオフィシャルウェブサイトに飛んで歌詞を引っ張り出してくる対応力。それを見て歌詞を思い出し、無事にライブは再開の運びとなった。

前半はゆり子さんのヴァイオリンの音がちとでかくて、しかも静か目の曲が多いセットリストだったのでいまいちバランスが良くなかったのだが、それも3~4曲目くらいから上手いこと調整されていった感じ。特にアコースティックヴァイオリンを使う曲ではマイクを通さず生音で演奏していたようだが、それでもよく響いてきたし、エレキの時より音量バランスも取れていて俄然良かったなぁ。

以前ツィゴイネル曲芸楽団のライブで「対話の可能性」が演奏された時にも思ったことだが、ゆり子さんのヴァイオリンが加わると曲が妖気を帯びる。あの時は他にも二胡、オルガン、ドラムがあったけど、今日聴いてみてあの妖気の中心はゆり子さんのヴァイオリンだったのだと、約一年越しに理解した。特に顕著に感じたのは天国とのセッションで「行ッタリ来タリ」を演奏した時か。聴いていて思ったのは、ゲゲゲの鬼太郎の「夜は墓場で運動会」という情景である。

生憎と演奏そのものは各パートの音がぐちゃぐちゃにぶつかり合ってバランスが悪かったのだが(これは会場の性質上仕方ないことだと思うが)、あの雰囲気は得がたいものであった。

日比谷カタン (@katanhiviya) | Twitter

「対話の可能性」

締めは「対話の可能性」4人バージョン。しかもフューチャリング宮国英仁ということで、宮国がメインボーカルを取る形。うわー楽しそう。実際楽しかったし。

宮国はずっと歌詞を見ながらの歌唱であったので、あんまり遊びを出す余裕がない様子だったが、他3人の演奏が「行ッタリ来タリ」の時よりも圧倒的にバランスが良くて、まずそれが気持ち良かったし、後半の掛け合い部分では…炸裂してましたね。

いやはや、実に楽しかった。しかもこれからもっと楽しくなるという予感をも持たせてくれる楽しさ。これはぜひとも、またやってもらわねばいけませんな。
良き夜をありがとう。