過去の学びから ~90年代の音楽業界の問題点~

引っ越しに伴い荷物の整理をしていたら、学生時代のノートが出てきた。音楽史、音楽理論、著作権などについて、割と真面目にノートを取ってある。今からもう20年ほど前のことだ。

ちょっと面白いなと思ったのが「音楽業界の問題点」という項目。いくつかの要素が列記してあったのでそこを抜粋する。

1.CDの売れすぎ
   総売り上げ枚数:2億2647万枚(95年)
   ミリオンセラーの数:18(94年)→28(95年)

2.(後述)

3.制作者サイドの意識の変化
   歌いやすい曲を制作する(売り上げ上位の曲がカラオケでも上位である)
   ヒットする曲が似通ってくる

まず1について。
CDが売れすぎて何が悪いのかと思うが、これはそのまま3に繋がってくる。いわば制作者サイドの創意の喪失・マンネリ化。ただこれはポピュラーミュージックがビッグビジネスになってきてからというもの、ずっと抱えてきた問題であって、必ずしも90年代特有の病だったとも思えないが…。

とはいえ、ミリオンセラーの数だけ見ても、多くの人が同じ音楽を聴いていた時代だったんだなということはよくわかる。「昨日のMステ観た?」と聞けば大体話は通じる世界。まだYou Tubeもないし、ヒットチャートに載る音楽はみんなの共通認識の下にあるという前提で業界が動いていた時代だったのだろう。(ちなみに2017年のCD総売り上げは1億5229万枚。※日本レコード協会調べ)

2.CD売れすぎの理由
   カラオケの影響・フラストレーションの解消
   商談、接待→関心が新しい曲に向かう
   だからシングルの売り上げが伸びた

2では、CD売れすぎの理由に先ずカラオケを挙げているが、私は当時カラオケに全然興味がなかったのであまり分からない。ただ現在よりも、音楽の「娯楽」としての地位が高かった時代だったことは確かだ。

何しろ音楽というものは、耳さえ空いていれば聴取できるため極めて受動性が高い。ポータブルCDプレイヤーもそれなりに普及していた頃だろう。3で指摘するようにヒット曲の性質が似通ってくれば、友人知人同士でカラオケに行った時に、ほぼ定番ばっかりで回すことも可能になる。商談や接待の席でもカラオケがそんなに重宝されていたのかどうかまではさすがに分からないけど。

3.製作者サイドの意識の変化
   歌いやすい曲を制作する(売り上げ上位の曲がカラオケでも上位である)
   ヒットする曲が似通ってくる

4.周辺業界も隆盛へ
   マスコミだけでなく、制作会社、販売会社も

そして曲が売れる→カラオケでよく歌われる→カラオケで歌いやすそうな曲を作る→曲が売れるというループが起こり3の状態に。ただそれ自体は4で言うように必ずしも業界にとっては悪いことではなかったが、結果として「売れる曲だけが正義、それ以外は価値無し」という意識が制作サイドに生まれていたかもしれない。

私の友人にも当時バンド活動をしていた人間がいて、「メジャーデビューさせてやるから路線変えろ」と言われた、という話を聞いたことがある。

5.プロデューサーの支配
   アーティストはどっちなのか?
   売れるもの、売れないもの

5は言わずもがな。
今思うと、なんであの当時あんなに音楽プロデューサーが一般レベルで認知されるようになったのか分からないが、やはり小室哲哉のように、プロデュースするグループに自らメンバーとして参加する人間の存在が大きかったのだろう。

とはいえ、本当の意味で創意が失われる要因としては、3よりもこっちの方が大きかったのかもしれない。プロデューサーというのは、言ってみれば売り方を全て取り仕切る存在だ。小室哲哉のようなプロデューサーがカリスマ視されて、多くのアーティストの卵が「私も小室さんにプロデュースしてもらいたい」と思うようになる。

結果「キミはこういう歌を歌いなさい、こういう衣装はどう?こういうタイアップ取れたよ」という風になったら、果たして演者本人から創意は生まれるだろうか。

勿論これは、業界全体の中のごく一部を私が勝手に想像した図でしかなくて、実際にはもっと話し合いながらやっていたとは思うんだけど、当時の「アーティスト」と今の「アイドル」を比べると、はたしてどっちが自分のことを自分で決めてやってるのかな?と疑問に思わないでもない。

「アーティストはどっちなのか?」というメモに込められた意味は、意外と重い。