Whereabouts Records代表・竹内一弘氏インタビュー

音楽で収益を得るには

――― 以前僕がインタビューをした人が、1回バンドでメジャーに行ったんです。でもメジャー行ったのにCDの売り上げがそんなに伸びなかったり、伸びたら伸びたで全然収入が増えないことに疑問を持ち始めて、結局メジャーを辞めてバンドやりつつ会社を立ち上げたんです。

何をする会社か簡単にいうと、アーティストとリスナーの間でダイレクトに音楽や情報やお金のやり取りをすることで、中間マージンを極力省いて、アーティスト側が小さな売り上げでもちゃんと利益を出せるようなシステムを作ろうというわけです。

日本でも「一発当てて大富豪になる」みたいな夢の追い方ではなくて、そういった現実感覚に即した活動の仕方を考えているアーティストが増えてきたように思います。

竹内: それはいいことですけど、それのさらに発展系みたいな話をツイッターかなんかで読みました。要は「これからのミュージシャンはレーベルとかに頼るんじゃなくて、個人で発信してお金をゲットできるシステムを作るべきだ、これからはそういう時代だ」っていう、まぁありがちな話ですけど。

それで何をするかというと、ブログで面白いことを書くんです。うちの猫がどうとか、音楽と全然関係ない話。で、面白いブログだったらいろんな人が見る。最終的にその人たちをコンサートに誘う、そういう戦略なんです。

でもそれは本末転倒で、その人の音楽と何の関係も無いよね。そこまで行っちゃうとダメ。まあ本人が良ければいいんですけど、基本的に音楽を作っている人は音楽で勝負すればいいのであって、注目してもらうために別のことをするという方向に流れていくのはどうなのかな…。

――― 多分、昔はその注目してもらうための仕事を事務所なりメジャーレーベルなりがやっていたと思うんですけど、そこにかかる経費と、CDを売る収益とが、完全に見合わなくなってきてるんでしょうね。

竹内: もう世界的にCDマーケットは死んでいて、アメリカとイギリスではアナログ盤が多少復活してるってのはありますけど、どうなんでしょうかね?お先真っ暗?

でも今年か、ダフトパンクがグラミー賞取って大ヒットしましたよね。あの現象は面白い。あれを今時のEDMって言う人がいるんだけど全然違ってて、あれは「70年代のディスコミュージックを現代に甦らせる」ってのがコンセプトでしょ?それがアメリカで大ヒットしたわけ。参加しているミュージシャンも名のある70年代のミュージシャンが中心で、全部生演奏でアナログ録音したっていう代物ですね。ああいう音楽が売れるっていうのは、まだ捨てたもんじゃないなって気もしますよね。

――― 個人的には、竹内さんのように小さい規模でやっている人たちは意外とやっていけるんじゃないかと漠然と思ってたんですけど、お話を伺ってるとそういうものでもないのかなと思えてきました。

竹内: 何人かレーベル専業の人は知ってますけど、やっぱりライブをやってますね。海外アーティストなんかも呼んできて、ライブを日本全国で企画してやったりしてるけど、基本的に誰も儲かってないでしょうね、インディーレーベルは。

逆に言うとコミケとかで売る人は遥かに儲かってますね。僕はCDプレスもやっていて、詳しい数字は伏せますが、コミケで売ってる人は発注のケタが違いますから。

だから音楽で利益を得る方法は、あるっちゃあるんですね。コミケでオタクが好みそうな音楽とか、そういうのをターゲットにしてちゃんと商売としてやればやりようはあるけども、普通に音楽性だけを求めて真面目くさってレーベルをやってる人は殆どそういう甘い汁を吸えない。

――― そうですね。こう言ってしまってはなんですけど、竹内さんのように「良いと思うものだけ出す」というやり方でやっていると、商売になりづらいというのはあると思います。

竹内: そうですね。一番いいのはやっぱり仕掛けが上手い人ですね。今の若者が好む感じ?キャラクターとかちゃんと見せられたらね。今、20代の人ってCD買わないでしょ。欲しい物リストにCDが無いですからね。ということは10年後はさらにそれが進んでいく。CDというか「音楽を買う」ってことが頭に無いんだと思います。

――― ライフスタイルとして、今は「物を持たない」、そういう方向に進んでいるように感じます。CDに限らず本もそうですね。「良い物を作れば売れるんだ」って言う人は絶対いますし、それが間違っているとは思わないけれど、ユーザーのライフスタイル自体が変化していることを、ビジネスとしてやってる人はもっと色々考える必要があると思います。