Whereabouts Records代表・竹内一弘氏インタビュー

日本人はDNA的に洋楽センスが欠如している

竹内: 音楽の在り方っていうのはいくらでもあって、自宅で弾き語ってそれで楽しいっていうのも音楽だし、武道館でコンサートやりたいっていうのもそれはそれでひとつだし、CD売りたいってのもそう。

で、自宅で弾き語っていた人がそのうち上にあがりたくなるでしょ。「CD出したい」とか思いだす。そういう人が大勢いるんだけど、基本的に音楽の才能なんて誰にでもあるもんじゃない。才能のある人はごく一部なんですよ。大体の人は平均点か平均以下のものしか作れない。それが悪いのかどうかってのは全然別問題なんだけど、商品化するのであればやっぱり皆をハッピーにさせるものを作らないと。そういう才能のある人しか出してほしくないという思いがあります。

またまた辛辣な表現になりますけど、今のミュージックシーンは「99%の半ばアマチュア・ミュージシャン」と「1%のプロ・ミュージシャン」がいるというような状況で、それが全ての音楽の魅力を薄めている感じがします。

――― なかなか手厳しいですね(笑)。

竹内: 日本には日本の音楽があり、そして海外の洋楽がある。ほとんどの日本人は洋楽をやってるわけだけど、多分DNA的にセンスが無いんですよ。洋楽に対するセンスやリズム感覚。日本のリズムと洋楽のリズム、ひいては黒人のリズムは全く違うんです。あと低音が聴けない。だから低音も出せない。テクノ・ミュージックがものすごく弱いのも、それが原因だと思います。

このあいだハンガリーに行ったときの話ですが、CDも出してないようなアマチュア・ミュージシャンが驚くほどすごい音楽を作っていて、もう聴いた瞬間に「ダメ、負けた」ってなりました(笑)。彼らは難しいことなんか考えずに適当に作ってるだけなんだけど、もう出音が違う。何故そうなるのかはわからないですけど。

リスニング能力は絶対に必要だ

竹内: いまって音楽を作るときに、ドラムやギターなんかの音が全部コンピューターに入ってるんですよ。それがものすごいリアルな音なわけ。リアルなんだけど、それは絶対音楽の音じゃないんですよね。それが判らない人が日本人にはものすごく多い。

すごく良くできた音だからそれをそのまま使う。するとものすごく不自然な音楽になる。そこを判断できるリスニング能力がないと良い音楽は絶対作れないんです。まずそれが根本にあって、それがわからないと良い歌も歌えないし良い演奏もできない。つまり、音楽を作りながら自分の中でジャッジをするわけですね。バイオリンのフレーズを入れました。ギターのフレーズを入れました。これが良いか悪いかって自分でジャッジしながらどんどん作り進めていくわけですけど、そのジャッジの基準の甘い人が多いんですよ。

――― 日本ではどこへ行っても音楽が流れていますが、その一方で音楽があまり身近じゃないと思うんです。生(なま)の音楽に接する機会がかなり限られている。だから「音楽」と「コンピューターに入っている音」を区別するリスニング能力なんて、なかなか培われないですよね。

竹内: それはありますね。そうそう。

マニュアルなんて何の役にも立たない

――― きちんと音楽を学んだうえで音楽やってる人も多分そんなに多くない気がします。例えばロックの良いところは、誰でもできるところだと思います。3コードを弾ければそれで曲が作れる。でも、そこからちゃんとしたものに持っていくまではやっぱ乗り越えていかなきゃいけない部分があると思うんですけど…。

竹内: 実際は乗り越えるんじゃなくて、できる人は最初から乗り越えてる。頑張って乗り越えるもんじゃない気がしますね。

セックスピストルズなんて、あの人たちはそもそも楽器すら弾いたことがなかったんです。ブティックのオーナーがパンクバンドを作るって企画して、メンバー集めて半年くらい楽器の練習をさせて作ったのがセックスピストルズ。ああいうのは演奏は下手だけども魅力があったし、ニルヴァーナは演奏は下手と言われるかもしれないけど、実はギターにしても何にしても完璧。あれ以上のギターはない。ああいう人(カート・コバーン)は最初っから、ギター持った瞬間から弾けてるんですよ。

関連するけど僕は音楽ライターをやっていて、例えば音楽雑誌に「ハウツーギター」「ギターの弾き方」みたいな記事をたくさん書いてるわけです。日本の音楽雑誌はギターの正しい持ち方から始まっていて、中学生や高校生がそれ見ながらやるわけ。日本人はついマニュアルを求める。ギターの正しい弾き方なんて、本当は無いのね。無いのにそうやって僕たちが教えちゃってる。僕はたまに「こういうのはもう止めましょう」って言うんだけど、やっぱりダメ。「書いてくれ」って言われるから書くけども…。そういった「教えてもらう感」、日本人はすごく強いんですよ。

アフリカのものすごく貧乏な国の動画とか観てると、弦が二本くらい切れてるボロボロのギターを弾いてたりする。それも膝の上に乗っけて、ラップ・スティールのように弾いていたりするんですが、それがめちゃくちゃ良いんです。
だから学ぶ必要なんてないんです、楽器なんて。日本は恵まれすぎているゆえに、そういった自由な発想が欠けちゃってると、僕は強く感じますね。

自分が録音した音をより良くするため、どういったエフェクターを使って、どんなセッティングにして、って懇切丁寧に解説している本とかあるけど、本当はそんなの何の役にも立たないんですよ。自分の耳で聴いてやるしかないんです。でも、ほとんどの人はそれができない。本に書かれていることを鵜呑みにして、「本がこう言ってんだから正しいに違いない」って考え方で作ってる人が多いから…。まぁ、これはちょっとレベルの低い話をしすぎですけどね。

海外で成功する日本人

――― 洋楽のセンスの話に戻ります。僕はライブハウスで働いてて、たまに「これは世界でイケるんじゃないか?」って思う人たちに出会うことがあるんですけど、その人たちが売れるかどうかってのはまた別の話で…。

竹内: うん、別ですね。だから僕は、そういう人に出会ったときに自分のレーベルで出してあげる体制を作っておきたい。それがレーベルをやっている意味です。

――― 売り方ということになると、ちゃんと洋楽ができる人が逆に日本だとウケない可能性があって。それなら一回海外で活動して、逆輸入的に、例えば「アメリカで評価された誰々が満を持して日本デビュー!」みたいな方が売り方としていいんじゃないかなと思うことがあります。

竹内: それはありますね。海外で成功する日本人って、テクニックとか速く弾けるとか、そういうのはわりと通用しますね。メタルとか、わりとやりやすい音楽?あとは歌、歌はダメか。坂本九ぐらいですからね(笑)。

――― 市場として決して大きなものではないですが、プログレも比較的日本のアーティストが海外で評価されているように見えますね。日本では小さなライブハウスでやってるようなバンドが、海外のプログレフェスに呼ばれたなんて話を聞いたりします。