はじめに
2011年1月、ロックバンド「メリディアンローグ」の公式ウェブサイト上で「オープンド・アーティスト・システム」(以下OAS)という新しい音楽ビジネスモデルが発表された。音源を完全に無料化してしまうという大胆なシステムを核に、彼らは音楽業界を本気で構造改革していこうとしている。
メジャーシーンで活動した経験も持つ、音楽業界と肌で接してきたバンドマンが行き着いた思想とはどういうもので、何故そこへ向かうことになったのか?そしてOASは本当に音楽業界を変えうるシステムであるのか?
1月下旬、メリディアンローグのドラマーであり、OASの代表である海保けんたろー氏に直接話を伺った。
テレビに出てもタイアップが付いても、食べていけない現実
――― 今日は、新しく始動した「OAS」というシステムについてお訊きしたいと思います。
海保: そもそもこれを考えるに至った経緯からお話しさせてもらいます。
僕がやっている「メリディアンローグ」というバンドがあるんですが、昨年まで事務所に付いて活動していました。avexからCDを流通してもらったり、タイアップを付けてもらったり、時々テレビに出させてもらったりなど、それなりにプロモーションもやってもらっていたわけです。
で、いま世間では「CDが売れない」ってすごく言われてるじゃないですか。実際にバンド活動をする中で、それをすごく実感するはめになりました。
例えばタイアップで知名度がちょっと上がったとしても、CD売り上げは思ったより伸びないし、ほんの少し伸びたところでそれ以上の収入にはならない。事務所は十分やれることをやってくれたと思うのですが、それでもこのまま頑張っていくことにメンバー全員が限界を感じちゃったんですよ。
――― 食べていけない現実が見えてきてしまった?
海保: ええ。それで昨年末に事務所を辞めてフリーになりました。それから連日メンバーと話し合いながら今後の展望を考えていって、段々とOASの発想に近づいていくんですね。
――― きっかけは必ずしもポジティブなことではなかったんですね。
海保: ええ。ただ僕自身、生活する中で全然CDを買わないんですよ。音楽を聴くのは好きなんですけど、例えば好きなアーティストが新譜を出したと聞けば、まずYouTubeで検索してみて、そこに無かったらTSUTAYAでレンタルして、それをパソコンやiPodに入れてOKみたいな。これじゃCDが売れないのも当たり前だなと思いました。
――― もうそれが当たり前ですよね。
海保: それだったらいっそ音源は思い切ってタダにしてしまって、ライブに人を集めてそこで売り上げを出した方が効率がいいんじゃないかって考えたんですよ。
――― そのアイデアがOASになっていくわけですね。