海保けんたろー氏に訊く「オープンド・アーティスト・システムって何ですか?」

費用面での懸念

レコーディングにかかる費用について

――― 定期的に新曲を配信するということは、当然定期的にレコーディングしないといけないですよね。しかも無料で配る曲だからとやっつけ仕事で録ったものではなくて、CDにして売りに出せるレベルのものを用意しなくてはならない。そういうキチンと作り込んだ曲を定期的に用意するのは、費用面でもかなり大変なのではないでしょうか?

海保: 確かにそうです。ただ、そういった費用をなるべく抑えるためのノウハウや情報を提供することはできるんですよ。例えば録音→ミックス→マスタリングという工程があって、それをどこどこのスタジオでやったら幾らかかるけど、あそこのスタジオなら幾らで済むから紹介するよ、みたいな。

資料請求してくださったアーティストの方には、そういう収入と支出のシミュレーション的なものは送ってるんですが、レコーディングの費用というのは本当にまちまちなんで一概には言えないですね。4ピースのロックバンドと歌なし生楽器なしの電子音楽じゃ全然違ってきますし、スタジオやエンジニアによってもピンキリです。

ちなみにメリディアンローグの場合だと、ボーカルの家に宅録環境があって、彼はレコーディングに関しても相当研究してるんで、かなりの部分を自分たちでできるんです。ドラムを録るときはさすがにスタジオ使いますけど、このやり方だとかなり費用を抑えられます。

――― 少し話は逸れますが、費用の多寡は別にしても、アーティストにとって楽曲は大事な「作品」なのだから、プロモーション用に短く編集したり音質を落としたものでもない楽曲を無料で配ってしまうなんてけしからん!という意見も出てきそうですが…。

海保: 極論を言ってしまえば、そういう風に言ってくる人たちが本気でそう思っているのなら、今まで通りの商売を続けていけばいいと思っています。売り手側だけでなくアーティスト側からも同様の意見は出てくるでしょうが、そこは選んでもらって構わないです。今まで通りのやり方でも、こっちに来てもらうのでもご自由にどうぞって感じで。ただ僕としては、そうやって商売してきた結果が今の音楽業界なんじゃないですか?というのがあるからOAS始めたんですけど。

――― OASがこれから軌道に乗って行けば、そこは二手に別れるでしょうね。

海保: もちろん僕らは自分たちのやり方が正しいと思ってやっていきますけど、今後、いま力を持っているところからの反発みたいなものはあるんじゃないかと想定しています。

特典制作にかかる費用について

――― 無料配信用の音源だけでなく、プレミアムサポーターへの手厚い特典を用意するとなると、やはりアーティスト側の費用負担はかなり重くなるのではないでしょうか…?
例えば実際にOASをやっていて、そこそこ成果を上げている(=バンドの動員数を増やしている)バンドがいたとします。その人たちが「そろそろいいかな?」と思ってプレミアムサポーターを導入してみたら、今までそこそこ黒字だったのに、特典制作のための支出がかさんで赤字に転落するということはあり得ると思うのですが…。

海保: その通りです。そのような問題を避けるために、そこはきちんとルールを設けるつもりです。今のところ、無料メルマガ読者数が2000人に達しないアーティストにはプレミアムサポーター制度の導入は認めないつもりでいます。

ただ、このラインを超えたらプレミアムサポーター制度を始めなきゃいけないというものでもなくて、そこはアーティストの自由にしてもらおうと考えています。例えば「うちは無料メルマガ読者数5000人いくまで始めませんよ」「うちは10000人いくまで始めませんよ」っていうのもアリです。

――― なるほど。ちなみに、実際にプレミアムサポーターになってくれるファンというのはどれくらいいるものと考えてらっしゃいますか?

海保: 僕らはかなり低く見積もっています。「5%はいないだろう」くらいの考えです。だから無料メルマガ読者2000人に対して100人いないくらい。資料請求してくださった方に対してはこの点についてもシミュレーションを提示しているのですが、仮にプレミアムサポーターが100人いれば、OASにかかる年間の収支はまぁ賄えるだろうと僕らは計算しています。もちろんレコーディング費用にどれだけかけるかでだいぶ違ってくる話ではありますが…。これがもし1000人とかだったら、もう余裕で食べていける計算になります。

ただ、いずれにしても僕らの考えでは、プレミアムサポーターというのは収入のサブ的要素で、メインになるのはライブなんです。