海保けんたろー氏に訊く「オープンド・アーティスト・システムって何ですか?」

賢くライブを打てば、黒字は出せます

――― 僕はライブハウスの人間なので、ライブ一回におけるお金の流れというのはある程度想像できます。実際そこまでライブが主と言い切れるものですか?

海保: もちろん黒字になるようなライブの組み方を考える必要はあります。僕は前々から、特にアマチュア・インディーズバンドマンに対して「とにかくライブをもっと賢く組まなきゃダメだよ」と言いたかったんです。

例えば東京だと、キャパ200~300人くらいのハコってすごく沢山ありますけど、そういうところって大体ノルマが2,000円のチケット15枚とか20枚とかですよね。そういうところに月3本とか出演して毎回ノルマを割ってるみたいなバンドがいて、それが本当に理解不能なんですよ。

――― ああ…いますいます。

海保: もちろん「ライブをやりたい」という気持ちは分かるんですけど、そこは置いといて、もうちょっと考えようぜって…。

仮に、月に3本のペースでライブをやってて平均動員が5~10人くらいのバンドがいたとします。彼らがライブを2ヶ月に1本に絞り込んで、そこでちゃんとお客さんを集めたら、20~30人くらいは動員できると思うんです。そうしたら今まで月3回ノルマ割れで発生していたマイナスが無くなって、収支にプラスが生まれるわけです。

そういう風に賢く立ち回ることで、音楽活動のために我慢してやっていた音楽と全然関係ないバイトも減らせて、音楽に使える時間が増えるんですよ。

OASの思想に基づいて言うなら、「音源は宣伝媒体であり、ライブが商品である」ということです。良い曲を作ってメルマガ読者に気に入ってもらって、ライブという場できっちりお金を回収するんだと。

――― 本当にそうなんですよね。知名度の無いバンドって、音源も自主制作で流通に乗ってるわけでもないし、どうしてもライブが最大のプロモーションの場だと思ってしまいがちなんですよね。もちろんライブハウスの人間としてはそれも大事なことだと思いますが、動員が5~10人前後のバンドの対バンはやっぱりそれくらいしかお客さんを呼べない場合が多いわけで、実際のところ大したプロモーションにはならない…。

海保: そうなんです。例えばチケット2,000円×15枚ノルマでライブをやるとしたら、それはつまり30,000円で出演枠を買っているという見方もできるわけで、そこは当然30,000円分のメリットがないとおかしい。でも実際に30,000円分のプロモーションになっているのかというと、そうではないんです。

さらに僕の個人的な意見ですが、アーティストを応援してくれる人たちに、無闇にお金を使わせてしまってはいけないと思っているんです。毎回ライブに来てくれる熱心なお客さんがいたとしても、やはり月3本とか来させるのは結構きついと思います。しかもその人たちがチケット代として払ってくれたお金はノルマ消化で消えて、アーティストには残らない。すごくもったいないんです。

――― 精算=支払いタイムになっているバンドってのはよく見かけますね。

海保: そんな1回30,000円の買い物を月に2回も3回もやって湯水の如くお金を無駄にするくらいなら、無料のメルマガでプロモーションする方が断然効率が良いだろうと考えてるんですけどね。